十三の私が愛したサガンの本朝吹訳は音楽だった
稲沢 家田満理
ハチ公は生誕百年どれほどの人がそこで待ち合わせただろう
京都 中尾素子
それぞれの人のこころにひとひらの花びら散らす桜の古木
船橋 片井俊二
雷門の柱の裾に腰おろし眺め廻すも旧人われは
満州丸の舷に整列「弥栄」(いやさか)と三喝せる高き声忘れず
満蒙開拓青少年義勇軍 中野照子
日はまさに辰巳の方より牡丹の花にまとも照らすも
大塚布見子
妻を描く「湖畔」愛人を描く「読書」黒田清輝初期の傑作
スパークリングワインを抜いて海老を食みやはりめでたき男のひと日
三島昂之
朝臥し(あさぶし)に如くものはなしやわらかなひかりのなかの鳥のこゑきく
外塚 喬
そうめんを三口すすて麦茶のむ夏を身体になじませる昼
東京 青木公正
権勢におもねることなき沢庵の誇りを継ぎて庭のすずしさ
田中成彦
田宮朋子
これからは粋なものをば読みまする永井荷風「雨蕭蕭」」を
松岡達宜
どこでもないどこかへ行きたしふるふると風が抜けゆく晩春の午後
光栄堯夫
大崎瀬都
萩原裕幸
笑ひ声また笑ひ声ひびかせていたましきまでに笑ふテレビは
川野里子
うすももいろのマスクつければ目力は万倍となるその眼のマツゲ
寺井 淳
ほどかれるリボンのような伸びをしてわたしの今日を始める二月
神奈川県 風花 雫
四歳児除染終へたる前庭に除染ごつこと砂遊びする
福島県 児玉正敏
もしかしてメリーポピンズかも知れぬフリルの傘が春の道行く
大阪府 瀬川幸子
黄ばみたる結婚式の集合写真花嫁のわれひとり生きをり
千葉県 旭 千代
三段の石段登り電話する雪国仕様の電話ボックス
青森県 高橋圭子
鉄路越え一本道の冬木立北極星の真下の我が家
人間の形の日本列島のどこかがいつも大きく痛む
大阪府 瀬川幸子
山形県 島田高志
対話型ロボット深く頷いて意地悪なんてしないよきっと
和歌山県 紀水章夫
「あんさんの主人達者か」問う姑は嫁なる吾をしばし忘れ
奈良県 松井純代