男に忘られて侍りけるころ、貴船に参りて御手洗川に蛍の飛び侍りけるを見てよめる
ものおもへば沢の蛍わが身よりあくがれいづる魂かとぞ見る
御かえし
奥山にたぎりて落つる滝つ瀬に魂ちるばかり物な思ひそ
男に忘れられたことを悩み、貴船明神に参詣。
「川の蛍はわが身から抜け出した魂ではないか」
貴船の神の返歌
「水の玉を砕く、魂を砕くほどの物思いはやめなさい」
あらざらん この世のはかの思ひ出にいまひとたびの逢ふこともがな
重い病の床から。死んだあの世での思い出に、もう一度お逢いしたい。
男がはじめて女に贈る恋歌 代作
おぼめくな誰ともなくて宵々に夢に見えけん我ぞその人
遠方へ行く女性を感動させる別れ歌 代作
惜しまるる涙に影はとまらなむ心も知らず秋は行くとも
別れの涙にあなたの面影はとどまってほしい
黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき